〜1、美しさ。
職場での業務の関係から、彼女だけがいつもみんなに背中を向けている。職場のどの場所からながめても、彼女だけがいつも背中しか見えないのである。そして顔は、いつもみんなと反対側、窓の外を見ている。彼女だけがそうなのである。 まったく、これでは気になって仕方がないのである。会話も、身のこなしも、しぐさも、彼女だけがいつも一人ぼっちで、それが、その後ろ姿というのが、とっても遠くにかすんで見えてきて、彼女がとっても、とっても可愛(カワイ)く思えてきてならなかったのである。いまにも壊れて消えてまいそうな、そんな、はかない美しさである。 美しいというのは、壊れやすいのである。だから、美しいというのは一瞬の、まばたきするくらいの瞬間だけなのだ。まるで、つかの間の幻(マボロシ)のようなものだ。そして、だれもがそれを狙っている。食い物にしようとしてである。美しく、正直であろうとするのは、世間から見ると、マヌケでお人好しのカモにしか見えないのである。事実そうやって、だれもが群がって来て「食いもの」にして壊してゆく。だからまた、美しいというのは非常に壊れやすく、一瞬の幻でしかないのである。 戻る。 続く。 |