index <  日誌 < K夫人:目次 26、妄想。


〜1 理想像。

職場で僕が見て、そして聞いていたのは、たぶん、彼女自身ではない。僕は現実の彼女を透かして、通り越して、彼女の中に彼女とは何か別のものを見ていたのである。自分にとって果てしなく、けっして届くことのない、永遠の世界を見ていたのである。それは僕が願い望み欲し続けたものなのである。あるいは現実のどこにもないのに、「あるのだ、あるはずだ」と信じ続けようとしたものである。

だからそれは、デッチ上げであり、ウソ八百であり、ねつ造と妄想に過ぎないのである。僕自身の、ゆがんで引き裂かれた精神が、必要に迫られて仕方なく作り出した、プライベートな思い込みと空想の世界なのである。しかしまた、それなくして僕は生きて行けない。僕の精神には、それしかなかったのである。

たぶん、彼女は僕にとって何かの象徴なのであって、僕は彼女の中に、僕自身の中で理想化された何か別のものを見ていたのである。だれでもよかったのである。しかしまた、なによりも切実で深刻だったのは、僕自身が何かを求めているということだったのだ。実際のところ、それはだれでもよかったのである。

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