index <  日誌 < K夫人:目次 30、「いざない」



〜1 祈り。

彼女がいる、そこへと自分が引き込まれて行く。そうした自分は、自分でもどうにもならないのである。まるで、自分でもどうにもならない本能に導かれ、従っているようなものである。自分の意思ではどうにもならない世界なのである。そして、自分みずからがそれを望み、求め、そして誘われ、導かれて行く。引き込まれ、そして吸い込まれて行く。

彼女がひとりぼっちになって、どこかへ行ってしまう。消えて行く。僕たちから離れて行く。僕たちを残して、見捨てて、一人でどこか遠いところへ、もう僕たちの届かないところへ消えて行ってしまう、そう、思えてくるのである。

事実、その通りなのである。心が離れてゆくのである。身体(からだ)はみんなのすぐ近くにいるけれども、心だけが、目に見えない心だけがどこか遠い、僕たちの手の届かないところへと離れて、消えて行くのである。もはや手遅れになっていて、取り戻せないように思えてくるのである。たまらなくなって、しょげかえり、泣き出しそうになる。

彼女の心が見えないまま消えて行く。一人ぼっちで、誰にも気づかないままで。僕たちを残し、僕たちを見捨てて、僕たちの届かないところへとはなれて行く。そして後ろすがたがとっても薄く見えてきて、いまにも消えてしまいそうで、それがとってもカワイく思えてきて、どうかどこへも行かないでと祈ってしまう。それは「願い」なのだ。僕自身の、そしてみんなの。

 戻る。                        続く。

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