index <  日誌 < K夫人:目次 33、「示標」



〜1 希望。

職場にいるみんなの顔は、みんなの中心へと向いている。それが職場のみんなの、それぞれにとっての興味であり関心の中心を示している。それはキズナであり、仲間としての気持ちが集まる方向、中心点を意味していて、そしてまた、そうならざるを得ない。それがこの職場の「空気」であり、舞台であり、そしてまた、それぞれにとっての役回りなのである。

にもかかわらず、彼女だけがいつも中心からズレた方向、、つまり外を見ている。そしてそれが、彼女の業務上のポジション(位置)なのである。そしてまた、ただそれだけのことが、僕にとって見れば非常に深刻で大きな衝撃を与え続けたのである。彼女の心が僕たちから離れてゆく、そう思えて仕方がなかったのである。

いま思うと多分それは、僕自身のすがただったのである。僕が生きてきた人生、そしてそれがカタチとなって固まった、いまの自分自身のすがたそのものだったのである。だから、だから無視できず、自分につきまとって、離れることができなかったのである。だから、彼女は僕自身そのものだったのである。

僕たちが、彼女の心の中から忘れられて、消えていって、彼女の心が僕たちから離れて行く。僕たちが置いてけぼりにされて、捨てられてしまう。彼女の心の中で僕が消えていって、忘れられ、失われてゆく。なぜかわけも分からず、そう思えて来てならなかったのである。僕が僕でなくなり、僕が見失われ、僕の心がどこかで切断されて、死んでゆく。そんな気がしてくるのである。僕の一番大切な何かが、また、処刑されてしまう。また、僕のたった一つの希望が失われて行く、そんな気がしてくるのである。

 戻る。                        続く。

日誌  <  目次。