index <  日誌 < K夫人:目次 39、「忘年会」



〜1 ひやかし。

忘年会の最中、近くの乾杯の声と共に、僕はグラスを彼女の方へと向けた。すると彼女のグラスもこちらへそっと近づいてきて、―― あー、なんとシアワセな瞬間なのだろう ―― 僕が彼女に届くと思われたその瞬間、彼女のグラスがスーッと後ろへ消えてゆくではないか。彼女が遠ざかり、はなれて、僕の目の前から消えて行く。まばゆい光のなかで彼女のシルエットが僕の中から消えて行く。

彼女のほほ笑みも、その優しいまなざしも、僕にはやはり夢でしかなかったのか。けっして届くことのない幻(マボロシ)だったのか。と、そのとき一瞬、彼女の口元がニヤリと笑ったようにおもえたのだ。あっ、そうだったのか。僕はハメられたのだ。彼女は何もかも知っていて、それでいて僕をさそい、ひやかして、そしてポイッと捨てたのだ。

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