index <  日誌 < K夫人:目次 41、 「忘年会の後」




〜1 当惑。

忘年会の席上、乾杯の合図と共に彼女のグラスが僕のグラスに限りなく接近し、そして触れる寸前、彼女のグラスが僕から遠ざかり消えていった。彼女の口元(クチモト)に素晴らしい笑みを残して。僕は残念で、悔(くや)しくて、憎たらしくて、めまいがしてた。そして彼女の素晴らしい頬笑みが、まばゆい光のなかで永遠に輝いていた。あ―、なんということだ、僕はただひやかされ、もてあそばれただけだったのだ。

数週間後、新年に入り、このことを彼女に打ち明けた。「XXさんは残酷ですよ」。と、そのとき彼女は何のことか分からず、うろたえ、当惑し、苦しそうに「残酷やて―」とつぶやいたのである。ホントに、いまにも泣き出しそうに。目からは涙がこぼれる寸前だった。

たまげたのは、僕の方である。僕のありったけの褒め言葉とお世辞を、彼女は理解できなかったのである! なんということだ、50過ぎのオバサンがそれに気づかないなんて! そのとき、僕には彼女が4、5歳の女の子に見えた。彼女の心の中が見えた思いだった。彼女がまるで天使のように見えた。

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