ルネサンスへ<  目次。<  K夫人-84、「永遠」



~1 僕は誰?

彼女のすがたから光と輝きが消えて、まばゆいばかりの色とりどりの色彩も見えなくなってしまった。僕はもう彼女の心の中に何かを感じたり見たりすることも出来なくなってしまった。彼女は心を閉ざしてしまったのだ。そして、ありきたりの、さしさわりのない日常の生活へと戻って行ってしまった。もはや彼女は、確固とした日常のレールの上を歩いている。もう二度とレールの外へ降りて来ることはないだろう。

それは日常という名の戒(いまし)めとシキタリ、掟(オキテ)と習慣が支配する世界である。固定したままで変わるということのない、まるで死んだような、あるいは、緻密な結晶のように化石化した世界である。彼女は心を閉ざし、元の自分の世界へと戻って行ってしまった。まるで、おとぎ話のかぐや姫のように。

そして、またしても僕は思い知らされた。やはり僕は異人種でしかなかったのだ。もともと住んでいる世界が違ったのだ。感覚も、感じ方も、考え方も、何もかもがあまりに違い過ぎたのだ。しかしまた、だからこそ僕は彼女に惹かれていったのである。イヤ、そんな大したことではない。ただ彼女は、あまりに極端な僕がキモチ悪くなって退いて行った、というだけなのだ。

しかし、そうした彼女にとって些細なことが僕にしてみれば強烈な衝撃となって、僕の心を打ち砕いてしまったのだ。しかしそれもまた、いまとなってはどうでもよいことで、そしてもう、どうにもならないことなのである。しかしいまの僕には、ただ、彼女を通して自分自身というのがよく見えても来たし、理解もされてきたように思うのである。それはただ彼女、K夫人のおかげなのである。

 戻る。                       続く。

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