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たしかに、現実は僕にとって幻のようなものであり続けた。何もかもが見てくれだけで、イミテーションの、中身がカラッポの、まるで亡者の世界のように思えてならなかった。あるのは、外面と体裁だけである。つまり、実体のないカラッポの世界、幻に過ぎなかったのである。 しかしまた、だからこそ、僕は彼女の中に、僕にとって真実の現実を見たと思えたのである。届かないもの、見果てぬもの、限りないものを探り当てて見つけたと思えたのである。 しかし、そんなものが現実にあるはずもなく、あり得ず、そしてまた、あってはならないものだったのである。それはただ、ぼくの願望であり、のぞみであり、いわば一方的な片思いに過ぎなかったのである。いや、そうではなくて、たぶんぼくは、初めから彼女を無視していたのだと思う。 |
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