index <  日誌 < K夫人:目次 < 19、正直。



〜1、動機。


大人というのは、利害関係と欲得と妥算で動いている。どんな話をしていても無意識のうちに、それが話の底流にあって、動機になっていて、おカネのにおいばかりを嗅ぎまわっている。そして、相手の顔色と足元ばかりを窺っている。それでもってみんながうなずき、納得もし、話が盛り上がって行く。

しかし、彼女には、こうした利害と欲得の話が出来ない。もちろん、それらしい話をすることもあるのであるが、どこか、ぎこちなく、わざとらしく、いつも途中で折れてしまう。つまり、オトナになれないのだ。まるで、小学生の子供のままなのである。関心や興味や趣味の傾向がそうなのである。

だから、まわりとどこか合わない。たいてい話の表面をかすめるだけで、中に入ることが出来ない。入って来ようとするのであるが、いつもかすめるだけで、いつの間にか無視されて消えている。

どこかヌケていて、ズレている、浮いている、異質である。そしていつも、とまどい、ためらいながら、迷い続けている。そうやって自分を見つめ、問い続け、自分というのをしっかりと握りしめている。まわりに流されず、自分で自分をつかんでいる。自分が自分であり続けている。

要するに、流されないのである。自分で自分を生きている。まわりの雰囲気とか空気に惑わされないのである。自分というのが、自分の理由の下で生きている。こうした人間は滅多にいないのである。自分で自分を見つめ、そして生きている。それは世間では許されない生き方なのである。

 戻る。                        続く。

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