index <  日誌 < K夫人:目次 50、「始まり」



〜2 運命。

自分自身の中にあって、満たされぬままずっと放置され続けて来たもの、願いや祈り、望みといったものが「彼女」のすがたとなって、現実の世界に現れたのである。それは僕にとってみれば夢であり、理想であり、象徴そのものだったのである。

彼女のすがたカタチは大した問題ではなかった。大事なことは、僕がわけも分からずに、ずっとさがしていたものが、「彼女」の中にあったということなのである。しかし、正直に言うと、僕が自分勝手にそう思い込んだというだけのことであって、ぼくのエゴイズムにすぎないのであるが・・・。しかしそれでも僕は、そうやって自分を見つけ、確かめることが出来たと思えたのである。自分自身の確かな証明を。

でも、正直に白状すると、 僕には、彼女にもそれを感じたのである。彼女もまた僕を求めていると。イヤ、もっと正確に言うと、僕も彼女もまた同じものを見つめていて、そしてまた、同じものを求めていたのだと。僕たちにはないものを。正直に言うと、僕にはそう思えたのである。だからこそ僕は、そこからまた進んで行くしかなかったのである。

では、僕と彼女はお互いに何も知らないまま、いったい何を見ていたのだろうか? つまり、それがうまく言えないのである。初めに言ったようにそれは言葉になる前の、直感とか衝動とか本能的なものだったからである。ただわけもわからず、いたたまれず、どうしょうもなく引き込まれてゆくのである。

それは運命とか節理とでもいったもので、本人の意思ではもはやどうにもならないのである。ちょうど雨が降って低い窪地に水が溜まってゆくようなものである。夏の夜、暗闇の中から虫が飛んできて、電球の明かりに吸い寄せられてゆくようなものである。

そして、それがいったい何なのか自分でもわからないまま、自分がそれに支配され、動かされて行くのである。そうなるしかない運命のように思えてくるのである。自分のことなのに、自分でもどうにもならない力が作用していて、僕はそれに支配されてしまうのである。

 戻る。                        続く。

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