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〜4 救い。


だから、僕は彼女の後ろ姿にとっても弱い。まただからこそ、彼女の振り向いたときの横顔はとっても可愛く、そして美しい。うれしくてたまらないようだった。みんなの方へ自分が向くということ自体が、みんなと自分が一緒にいるということ自体が、彼女にはとってもうれしいのである。もちろん、そう見えたというのは、これまた、僕の自分勝手な思い込みなのであるが・・・。

しかしまた反対に、言い換えると、僕はそうした相手としての女性を求めていたとも言えるのである。僕自身の都合として、僕がそれを求めていたのである。ある意味で、それは僕自身のすがたであり、僕自身そのものだったからである。

僕もまた、ずっとそうであり続けたのである。
いつでも、どこでも、どんな場面でも、みんなといっしょにいて、みんなと一緒に暮らしているにもかかわらず、心の中はいつもずっと異人種であり続けたのである。心の中はいつも別の世界を生き続けてきたのである。

現実になじめず、なんの親しみも感じないのに、自分を偽(いつわ)って、ただまわりに合わせて来ただけなのである。そうするしかなかったのである。しかしまた、だからこそ彼女のことが気になるし、まるで自分のことのように、自分でもよく理解できたと思えたのである。

そしてまた、だからこそ、この世に彼女以上に自分にとって大切な人はいないと思えたのである。彼女こそが、僕にとってのすべてであり、それだけが僕の本当の姿なのである。ただそれだけで僕は救われたのである。僕のすべては彼女の心の中でのみ明るく照らされ輝きを得るのである。僕にとってみれば、彼女こそがこの世のすべてとなり得たのである。

 戻る。                      続く。

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