index <  日誌 < K夫人:目次 59、「ヨコ顔」



〜1 叫び。

K夫人(以下彼女と略)の、髪の毛の一部が頬(ほお)に引っかかっていて、彼女のヨコ顔がはっきり見えない。まるで何かに透かして見るように、彼女の素顔が髪の毛の向こう側で見え隠れしている。そして、それが何かとっても大切で神聖なもので、僕には永遠に届かないもののように、そう思えてならなかったのである。

たしかにとっても可愛く、魅力的で、美しいもののように思えてならなかった。それは、僕には果てしのないものであって、けっして届かないものであり続けたものだ。それがいま、目の前にいる。

ショートカットの乱れた髪の向こう側に、素顔が見え隠れしている。まぶしく、めまいがしてきて、僕は彼女の素顔以外なにも見えなくなっていた。息がつまり、呼吸が止まって、何も聞こえず、感じられず、身体が固まってしまって、カラダの中の血流が止まってしまったようで、とっても息苦しい。胸が圧迫されて苦しい。僕の中から何かが叫んでいる。言葉にならない、衝動的で、本能的な叫びである。

苦しく、息が詰まって窒息しそうで、痛くてキリキリしてきて、心臓が押しつぶされて、破裂してしまいそうだ。僕はいったいどうしたというのだろう。僕はだれで、何をしているのだろう? またしても僕は、夢の世界をさ迷っている。自分が誰かわからなくなるのである。

 戻る。                        続く。

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