index <  日誌 < K夫人:目次 62、「象徴」



〜1 理由。

はじめてこの職場にきたときもそうだった。どこか暗く、息苦しく、僕たちを包むまわりの空気の雰囲気といったものがそうで、そしてまた、気分や気持ちといった心の持ち様といったものが、どこか沈んでいて苦しく、華やかさとか潤いといったものを欠いている。ここは男性ばかりの職場なのだ。・・・イヤ、それは言い訳だ。それは僕自身が、もともと始めからそうだったのだ。それは、僕の心の中がそうだったのだ。

そしてその奥のスミのほうに、いつも彼女がいた。一人ぼっちで。そして僕の心は、ただひたすら彼女のいるところへと導かれ、誘われ、吸い込まれて行く。そして、それは何よりも僕自身がそれをのぞみ、そして求め、願ったことなのだ。

それは、僕がこの職場に来る前から、イヤ、この職場を知るずっと以前から、はるかそれ以前の僕がこの世に生まれたときから、ずっと待ち望み願っていたことなのだ。しかしただ、それが何なのか自分でもわからず、それに気づくということがなかったのである。だから、ただひたすら待ち続けるしかなく、そして願い続けてきたものだったのである。

それ以外に僕の「理由」などなかった。それは僕が生きている意味であり、自分自身の確かな証明だったのである。それはつまり、自分自身の心の中の風景だったのである。僕は彼女を通して自分自身の心の中を見ていたのである。そしてそれに気づかされたのである。


 戻る。                       続く。

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