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~1 動機

それは僕にとって不思議な情景であり続けた。50過ぎのオバサンのやることなすことのすべてが、なにもかも、小学生の女の子のように見えてくるのである。まことに不可解で不思議な世界であり続けた。なにかが、どこかでヌケている、そんな世界である。

すがたカタチは立派な50過ぎのオバサンなのであるが、実際のやることなすことのすべてが、どこかで、何かがヌケていて、なぜかどうしても小学生の女の子のように見えてしまうのである。不可解とはこのことなのである。

彼女にはオトナの話が出来ないのである。話のかけひきというか、タテマエとホンネの区別が出来ないのである。利害関係の物色とか妥算、欲得の意図や計画性、そしてなによりも、彼女には、その「動機」そのものが欠けているのである。だからオトナの話になっていないのである。だから、オトナの話の流れに入ってくることが出来ず、いつも話が途中で折れて、途切れて、いつの間にか会話から外れて消えているのである。

そういう、よこしまな妥算や意図が理解できないというのではなくて、もともと、そういうことに関心がないというか、彼女自身が、もともとそのように出来ていないのである。僕には彼女のそうしたところが、とってもチグハグで、アンバランスで、むりやり取り繕っているだけのように見えてきて、何か言い知れぬ異和感みたいなものを感じてしまうのである。不思議で不可解な、どこか現実離れした世界のように思えてならなかったのである。


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