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3、正面。



だからそれは、彼女の正面の顔ではない。なぜなら、僕は当事者ではなく、当事者になれないところにいたからである。僕と彼女はあくまでも他人なのであって、直接の関係になり得なかったからである。

また、直接の関係でなかったからこそ、彼女の心の中を知ることが出来たのである。届かないとわかっていたからこそ、僕は自分を冷静に省(かえり)みることができたし、自分をもっと深く知ることが出来たのである。それが彼女の「ヨコ顔」だったのである。

彼女を「正面」から見るというのは、彼女と私との直接の関係であって、それは。彼女と私という当事者の関係であって、それは同時に、何の意味もない日々の生活者としての関係である。

カビの生えたような日々のあたりさわりのない人間関係と世間話の世界である。どうでもよい、面白くも、おかしくもない、へきえきウンザリするような日常の世界である。だから、僕が見ているのは、彼女の正面の顔ではない。

それは、あおぎ見るような、はてしなく届かない世界。それでいて、誘われて吸い込まれてゆくような世界。つまり、限りなく白色(しろいろ)に近い青、すなわち、水色である。それは人間の顔でいえばヨコ顔であって、正面の顔ではない。

戻る。            続く。


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